時代は戦国。
日本は一つに纏まりかけていた
・・・そんな時。



01 戦国の世に降り立って



薄暗く、無機質な部屋。
中央に構えて座るのは身につけるもの全てが白い老人と呼ぶべき歳の男性。
ミズハは何事にも興味を示していない瑠璃の瞳でその老人をじっと見詰めている
・・・暫く、無言の時が続いた
先に口を開いたのは老人の方だった

「ミズハよ、仕事だ。」

長い時間の後に出た言葉はこの一言だけだった
それだけ言うと老人は手を鳴らし使いの人物からミズハの手へと一枚の紙を渡す

「それが今回のターゲットだ、詳しい事はそれを見ろ。情報を集めるだけで良い、余計な事はするな」
「御意」

ミズハの返事を聞くと早々にミズハを下がらせ、自分はそれを見届ける事も無く椅子の後ろに引いてあった幕の裏へと姿を消した
静かな部屋の中、ミズハが出て行く直前、小さな舌打ちの音が静かに溶け込んでいった



* * * * * * * * * *


「ふぅん、『石田三成』・・・」

ミズハは屋根裏に来ていた。
ターゲットである石田三成の存在している時代・・・ミズハが生きた世界の時代とは全く異なった世界の異なった時代。
日本という国の過去、戦国時代と呼ばれている群雄割拠の世。
現在、石田三成が城主として存在しているその城だ。
ミズハが身をおいている屋根裏は丁度、三成が私室として使用している部屋の真上。
今も、下を除けば直ぐに三成の姿が見られる
こういうときに気で出来た建築物という物は便利だ。
潜り込み易く、監視しやすい。
現にミズハ以外にもこの館に潜んでいる者は多くは無いが、少なくも無い。
まぁ、ミズハほど目立つ隠密はいないが・・・だ。
ミズハの青い髪と瞳は黒髪黒目の多いこの国では目立つ。
否、この色は何処の国・・・たとえ自分の国だろうとこの色は異端であり、排斥される存在だった。

「ん?何・・・」

監視していた三成が急に視界から消えた。
慌てて身を乗り出し、再度三成の姿を確認し、ホッと安堵の溜め息を吐いたそのとき、
ミシリ、と否な音の直ぐ後、ミズハが丁度手をついた場所から腐りかけて脆くなっていたのか天井が抜けた。
慌てて態勢を整えようとするも、これだけ派手な事をしてしまえば気付かない物はいないに等しく、付け加えるならば相手は戦国の世を生き抜いてきた武将でもある。ばれないはずが無かった
そして、そんなことを思っていたのは天井からミズハの身体が離れ、そして丁度地面に着く直前までだった

「誰だ・・・」

ここまででも運の悪いのはミズハ自身判ってはいたが、それ以上だったようで、
ミズハが落ちた場所は、丁度三成の真上。
日ごろからの鍛練の賜物だろう反射神経で三成が後ろへ避けた為接触こそ無かったがそれでも十分に最悪な初対面だ

「青い髪・・・?」
「ッ!」

さっとミズハの顔に朱が差す。
慌てて両腕で隠そうとするがそう簡単に隠せる物でもなく直ぐに諦めて三成を睨みつけた

「ほぅ・・・目まで青いのか」

三成は自分の顔をミズハに近づけ、食い入るように目を見詰めていた

「名は?」
「・・・・・」
「何処から来た?」
「・・・・・」

ミズハは三成の質問にことごとくの無視を決め込みずっと睨みつけているだけだった。
この戦国時代では隠密は見つかってしまっては残された道は殆んどが二つに一つ。
殺されるか、自分から死ぬか・・・どちらか一方だった
ミズハも一瞬は死のうとも考えたが、自ら命を絶つ為の手段を今は持っていない事に気付き、断念せざるを得なかった

「(好奇の目で見られるのは慣れている・・・)」

もう慣れてしまったのだ
ミズハはこの髪のせいで今まで幾度となく阻害され、時には好奇の目で見られつづけてきた。
幼い頃こそ何度も諦めずに反論したが、今ではそれも諦め、こうして能力のみの世界で生きつづけている
ふと今までずっと睨みつけていた視線を力なく緩め、視線を逸らす
質の良さそうな畳の上、調べに来ただけの筈だったのに何と間抜けなのだろう
そう自嘲の笑みを漏らすと顎に添えられていた手が離れ、不自然な態勢から開放される

「そんな顔をするな、別に殺すわけじゃない。」
「・・・は?」
「殺すわけじゃないと言ったんだ」

ならば如何しろというのか、ミズハは唯々理解出来ずに呆然と三成を見詰めている
その様子が可笑しかったのか三成は、口元を掌で覆い声を殺しながら笑いだす

「なん、何なんですかさっきから!殺さないとか、俺の事、馬鹿にしてるんですか!?」
「殺して欲しいのか?」
「そうじゃなくて!」

ふざけているのかそうではないのかまるで判断は出来ないが、飄々とした風に三成とは逆に感情的になっているミズハをからかうような口調で接する。

「落ち着け。」
「ぅ・・・」
「俺を殺しに来たわけではないのだろう?・・・ならば問題は無い。」
「そんな・・・」

確かにミズハは三成を殺しに来たわけではなかったが、それでもこの時代こんな風にであったものにこのような処遇など有るはずも無く、そうして訝しんでいると再び三成は笑い出した

「そうおかしな顔をするな、」
「おかしな!?」
「おかしな、だろうその顔は」

今度はを堪える事無く前面に出して笑う
始めは何かを言おうとしていたミズハだったが今ではあまりに三成が笑い辞めないので段々と口を噤み、軽く呆れたようにその青い目を半眼にして見ている

「そんなに笑ってると臣下の方々に気付かれるんじゃないですか・・・」
「あぁ、そうだな・・・気を付けよう。ところで・・・」

今までのふざけた表情を潜めさせ急に生真面目な表情をつくった三成に若干の驚きの表情を見せたミズハは慌てて、けれどもそれは表に出さず体勢を整えた
今度こそ真面目に会話をすることができる。そう思い先ほどとは違い睨まずじっと相手の瞳を見つめる。
三成の黒い瞳にはミズハの姿がしっかりと映っていた。
そして、ミズハの青い瞳には濁る事無く三成の姿が。三成はそれを確認するとミズハに対して初めて見せる上に立つ者としての表情をみせふっと笑った
「面白い。」
「・・・・・」
「実に面白い人間だ。」
「・・・・・」
「お前、ミズハといったな」
「はい。」

始めに聞いたくせに、と不可解に眉をひそめるとそれを知ってか知らずか人差し指をびしりと目の前に差し出す。

「気に入った。お前暫く此処に居ろ」
「・・・は?」
「此処に居ろと言ったんだ。実に面白いからな、お前は」

三成が自分の何処を気に入ったのかと必死で悩むミズハだったが、ここにきた目的を思い出し今考えていた事を中断する
ここにきたのはこの石田三成という人物の情報を集める為。ならばミズハが此処にいて知りえることは隠れて探るよりも多いかもしれない
そう脳内で整理をつけるとコクリと深く頷いた

「判りました。俺は暫く此処に滞在させて貰います」

三成はミズハの了承の意を聞くと直ぐにまたミズハの見慣れた青年らしい若々しい笑みを浮かべミズハの頭をクシャリと掻き撫ぜた

「そうか、良かった。・・・あーすまないが今日は屋根裏に居てもらえるか?明日皆に紹介をするからそれまでは・・・・すまんな」
「いや、別にいいですけど・・・」

ミズハは驚いていた。正直三成が自分の世話を焼いてくれるとは思ってもいなかったのだ。
この館に居ていいが忍び等と同じ様に扱われるのが精々だと思っていたのだ

「(・・・変なヤツ)」

そう思いつつ屋根裏に飛び移り、腐った箇所に注意しながらそっと見ていると三成は崩れ落ちた木々の破片を脇へと寄せ、お休みと言って明かりを消した

「(本当に、変なヤツ・・・)」

明かりの消えた室内の闇に姿を溶け込ませながら小さく囁くほどにお休みと言って消えていった





*****アトガキ*****
前々回(20060304)の絵茶中に描いた最後の合作より妄想されできたお話が、その1話目がやっと完成しました〜
長かった。書いてる途中に1回絵茶が開催されてしまうほどに・・・
いや、まぁ私の遅筆のせいなんですが;
主人公の名前はミズハ君です。
因みに私が書いたこの文中にでてくる三成さんは戦国無双2の三成さんとは違った三成さんです。
さらに言うと史実とも違った事とかも出てきますから、飽く迄も時代背景が戦国時代なだけの全くの和風ファンタジーなので悪しからず。
因みにこの作品は2006/03/04にGrand Gugnolさんにて開催された絵茶に参加していた方にはフリーにしておきますので参加していた方は持っていっちゃって下さい。 2006/03/19
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