「ん・・・みじ・・ん、みじさん・・・」


こんな朝早くから私を呼ぶ声、
どうせまたお母さんだよね・・・
もうそろそろ終わりとはいえ
未だ夏休みなのに、せっかちだなぁ
耳に息が掛かってくすぐったいよ・・・


「紅葉さん、起きて下さい・・・?」


耳に・・・息・・・?
あれ、一寸待ってお母さんはこんなに近くで起こさないよ?
なんかさっきから思ってたけど
布団も一寸ぬくいし・・・
ぬくい?何で?


「んぅ・・・?」
「おはよう御座います、紅葉さん」


未だ確実に覚醒していない脳を無理矢理起こすように
瞼をあければ其処・・・正確には私の布団の中で寄り添うように寝ている奴は・・・


「っうわぁあぁぁあぁぁぁっ!!!」


私は叫んだ。
そりゃもう女とは思えないくらいに大きな声で。
何故かってそりゃあ・・・
目が覚めて布団の中に見知らぬ男が居たら
誰だった叫ぶでしょ・・・

そういや、叫び声が裏返ってた気がする・・・










秋と共に










「と、ゆー訳で今日からお世話する事になった鹿本ユウジ君。」
「宜しくお願いします。紅葉さん」
「ヨロシクオネガイシマス」


多分今の私の顔はスッゴク不機嫌だろう(ついでに不細工)
朝、目が覚めて(というか起こされて)はじめに見た
布団にもぐりこんできていた見知らぬ男が
我が家に来る下宿生だったなんて・・・

お母さんの説明じゃあ彼は、
鹿本ユウジ、高校一年生。お母さんの妹の息子だそうで
高校二年の私にとって見れば一つ年下。
実家は京都の方にあるんだけど、
其処からだと余りにも遠いからってんで
学校近くのアパートを借りてたらしいんだけど、
其のアパートの管理人さんがもうずいぶんとお歳のため
田舎に戻ってゆっくり残りの人生をを過ごすとかで
アパート潰しちゃうから、我が家に来たらしい。
何か・・・にこやかに笑ってくれちゃって逆に憎たらしいわ。


「こーら、紅葉ちゃん全部口に出てるわよ」


何時までたっても若いままで嬉しいけど
『こーら』は無いでしょ・・・って、え?


「声・・・出てた?」
「うふふ、全部。」


『うふふ』じゃありませんお母様。
ていうか、其の笑顔が恐いですお母様。
其の手に持ったフライパンは私を叩く為に持ってきたのか?
だとしたら、出来るものならば遠慮したい。


「卯月さん落ち着いて下さい。」
「・・・ユウジ君が言うんのなら仕方ないわね。」
「凄ッ」
「有り難う御座います。」


ボソッと言った言葉が聞えてたらしい
挨拶の時から変わらない笑顔でこっちを見てくる。
ニコニコしてて別にそれ以外何でも無いはずなんだけど何かな?
何か・・・不自然というか、嘘くさいというか・・・
兎に角、何か変。
端を動かしながらもじっとユウジ君とやらを観察していたら
“ユウジ君”はニッコリと笑顔でこっちを向いてきやがった。
無償に気に喰わない・・・。

私はそんな朝食を長々としているのも嫌になり
早々に食べ終えると食器を片付けて二階に戻る。


「紅葉ちゃ〜ん?」
「宿題やるから。」
「そう・・・」
「・・・僕、何か気に障るようなことしたんでしょうか?」
「さぁ・・・でも女の子なんてコンナモノよきっとv」
「そうですか・・・」


妙に心配してるような台詞が癇に障る。
元々同情とか、心配とか嫌いじゃないけど・・・
嘘は、嫌い・・・。
騙されるなんて真っ平ごめんだし。
まぁ、アイツが嘘をついてるなんて言い切れないんだけど
何と無く・・・騙されてるような、気が、する。
嫌だな・・・。



そうして考えてるうちに、
私は深く眠りについてしまった。



タンタンタンタン・・・

軽い足取りで階段を上ってくる足音がする。
お母さんかな?
ってお母さんしかいないか・・・
私も大概ボケたかな?


「紅葉さん!」
「!?」
「?如何したんですか?」


バンッと勢い良く音を立ててドアを開いたのは
お母さんでも、お父さんでも、ましてや3年前に死んだお婆ちゃんでもなく、
今日家に来たばかりの下宿生だった。


「何?」
「もう直ぐ晩ご飯ですよって言いに来ました。」
「へぇ」


特に気に入らない訳でもないけど、
声が何時もより低く聞えるのはどうしてだろうか


「僕、何かしましたか?」
「え?」


声が低かった事が解かったんだろうか、
それとも朝のあれがいけなかったのかな。
私の(多分だけど)一方的な思い込みのせいで
気を悪くしてたら悪い事したな。


「ううん。何でも無いのごめんね唯・・・。」
「唯?」
「あ〜・・・やっぱ何でも無いよ。」
「気になります。」
「でも・・・」
「言ってくれませんか?」
「・・・判った。」


思い違いのことを、
話そうとしない私と、
聞きたがるユウジ君。
このままでいっても平行線な一方だし・・・
聞きたい気持ちもわかるからって事で、
私が折れてしまった。

「私ね、貴方が私の事騙してるんじゃないかなって思っちゃってて・・・」
「・・・」
「ごめんね、私の思い違ッ・・・!?」

息を飲んだ。
何でってそりゃあ・・・
ユウジ君が私に、私に・・・
キスを・・・
キスを・・・


「ふふっ・・・正解。」
「な・・・」
「良く分かったね俺が猫被ってるって」
「え、ちょ・・・」
「賢い女(ひと)は好きだよ?」
「放してっ!」


私の顔、今絶対赤い。絶対。
どうにかしてユウジ君の腕から逃れられたけど、
それに・・・
ユウジ君のあの変わり様は何!?
本当に私が直感で感じた通りに、
騙してた・・・猫を被っていたなんて・・・。
お母さんはこの事知ってるのかな?


「因みに卯月さんは知らないよ?」
「へぇ、そうなの・・・って私何も」
「うん。あのさ、全部声に出てるよ紅葉」
「そんなっ!・・・って名前!」


私が思っていた事全部口に出していた事と
名前を呼ばれた事の両方に驚いて
どちらを先に驚いて良いのかあたふたしているのを傍目に
ユウジ君はクスクスと楽しそうに笑いながら
「嫌だった?」
等と聞いてくる。
嫌って訳じゃないけど、取り敢えず年上だしな・・・


「あのさ、ユウジ君・・・」
「ソレ。」
「『ソレ』って?」
「『ユウジ君』ってやつ、さ」
「何?」


少し不貞腐れたように言う様が
歳相応の反応っぽくて少し可愛い。


「・・・」
「何よ」
「止めてよ。君付けなんて」
「えっ・・・と。」
「『ユウジ』って呼んでよ」
「え〜っと・・・」
「ね?」


首を傾げて上目図解に強請ってくるなんて
殆んど販促に近いよ・・・
可愛いし・・・
格好・・・良いし。
また、折れるしかないのかぁ・・・


「ユ・・・ユウ・・・」
「『ユウ』?」
「ユ、ユウ・・・ジ・・・」
「!・・・反則・・・」
「え?」


顔を赤くさせて、さらに半泣き状態と言う
本当、見せられたものじゃないだろう顔で見上げると、
ユウジく・・・ユウジは意味のわからない言葉を呟く。
ちゃんとみると彼の顔もかすかに赤い。


「可愛いよって事。」
「きゃっ!?」


不意打ちの言葉と抱き締めてきたユウジの体温に
裏返ってしまっただろう声を上げてしまうが
そんな事もお構いなしに更に軽く力を
こめてくる。


「大好きだよ?」


悪戯に私の心を揺さぶる声。
もう直ぐ訪れる秋と共にやってきたのは、
私よりも年下の、けれど大人びた少年との
前途多難な新たな日々。








****アトガキ****
littleのサイトとの相互記念&
littleの誕生日おめでとう作品!
っつてもlittleの誕生日は過ぎてるし、
リクエストが『もうすぐ秋が訪れる』だってのにもう9月;
しかも『秋が訪れる』ってのが
最後の微妙な文でしか表現できてない!
ごめんよlittle・・・

2005/09/14


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