髪も肌もじりじりと焼いていく強い日差しが憎らしくて、睨んでやろうと顔を上げたら、余りの明るさに目が眩んだ。

遠くでボールを投げ合って遊んでいる子供達がこちらを見て、手を振った。
この蝋燭街で生まれた、子供達だ。
赤い月が創設されてから、まだ十年も経ってはいない。
彼らが、情報屋の一員としてこれから働くことになるかはまだ、分からない。

カ キ 氷 と 君 。
  -  S h a v e d  i c e  a n d  Y O U




も う か す ら
定 か で な い い 出 。



 「おねーちゃーん!」

…おねーちゃん?

シェリーは暫くその意味をくるくると頭の中で巡らす。

「だ、誰がお姉ちゃんだ…ッ!」
「おねーちゃーん!!」

四人の小さな少年少女たちは、満面の笑みを浮かべて、駆け寄ってくる。
両手を挙げて、まるで抱きつかんとばかりだ。

「お姉ちゃんじゃねーって!」

それでも来てくれたからには、高い高いの一つでもしてやろうと、しゃがむ。
が。
子供たちはそんなシェリーの脇を通り過ぎ。

「おねーちゃん!」

シェリーは振り返る。



 お盆を持ったシャンタルが、立っている。
白い半そでを着て、半そでよりもずっと白い二の腕を見せている。
彼女の腰にすがりつくように、子供達が寄ってたかっていた。
お盆の上には、いくつかのカキ氷。

「おねーちゃん、カキ氷ちょーだい!」
「ちょーだい!」

ほんの四・五歳の子供に四人も詰め寄られて、シャンタルは戸惑い気味だ。
助け舟を出そうと立ち上がったが、シャンタルは仕方なさそうにため息をつくと、屈んだ。

「落とさないようにね。」

彼女なりに子供と接しようと頑張っているのだろう。
どこか顔が引きつり気味だ。
子供達はわーい、と大喜びしながら、各々氷の入った器を手にする。




 残った器は、二つ。

「…シェリーの分…なくなってしまったわ。」
「他の人にあげるつもりだった?」

シャンタルは首を振った。

「おば様が、『シェリーは大食いだから』って言ってたから…五個くらい食べるかな…って思ったの。」

カキ氷を、五個。

「……いや、五個はちょっと無理だから。」

目にも止まらぬ速さで振り下ろされるナイフ。
飛び散る氷。
激しく揺れる髪の毛。
目は血走り、脳内麻薬のお陰で口の形は笑み…ってそれはないか。

ナイフ一本で一気に六個もカキ氷を作ってしまう彼女は一体どんな神業の持ち主なのだろう。

そんなことを考えていると、不安そうな顔でシャンタルがしゃがんだまま見上げてくる。

「一個、頂戴。」

そう言うと、シャンタルがほっとしたように緊張させていた顔を緩めた。
シェリーはどこか涼しい場所を見つけようとするが、早くも溶けて崩れてきたカキ氷を見て、その場に座った。




 「…そういえばさ。初めてシャンタルがここに来たときも、こんな風にカキ氷を作ってもらったなー。」

自分が朝に見回りをしていたら、シャンタルが氷の塊を担いでいた。
その時は、まだシャンタルの肩の傷が治っていなくて。
もしかしたら、と思ったら心配になって、代わりに担いだ。

さくり、と雪の山にスプーンを刺す。

「そうね。」
「…それで、夏になったら皆で食べようって。」

夏になったら…。

ふっと心に何か疑問のようなものが現れる。
自分の口から出た言葉なのに、その言葉が不自然でならない。

こうしている間にも、太陽はちっぽけな自分達を焦がしていくのに。

隣を見れば、シャンタルは雪の山を一つすくって、口に運んでいた。
暫くして、シャンタルはこちらを見る。
どこか切なそうな目に不安がよぎった。

「シャンタル、どう」
「…好き?」


…はい?


実際はほんの少しの間だったのかもしれない。
それが、一分にも十分にも思えた。
その間に、頭の中に色々な思考が回り出す。


好き?


つ、つまりそれは自分のことを好いてくれているということデスカ?

突然すぎる告白に、出てくる言葉も出てこない。

「…オ、オ……レもす…すっ…」
「れもす?」

シャンタルが怪訝そうな顔をする。

れもすって何だー!

己の情けなさ百倍増しだ。もれなく金銀パールプレゼント。

男としてどうなんだ、自分!
後ろの壁に頭をゴンゴンぶつけたい気分だ。

「…もしかしてシェリー…」

他にガールフレンドがいるんじゃないの?
なんていわれたらおしまいだ。
悲しいことに今までいたこともなかったけど!

蝋燭街には同い年の女の子なんて一人もいないから、こう見えて彼女居ない暦と年齢は同じだ。

「か、彼女なんていないから!」
「…やっぱり嫌いだったのね。」

あの感情を滅多に出さないシャンタルが、あからさまにしゅんとする。

「いや、好きだから!好き!好きだって!シャンタル!」

彼女いないっていったのに、誤解されてしまったか!?
こっちは一世一代の大告白だったのに。

立ち上がって全力で否定すると、向かい側でカキ氷を頬張っている子供達がこちらを見る。


…カキ氷?


嫌な予感が頭をよぎる。

「…じゃあ、来年も作るわ、カキ氷。シェリー、好きって言ってくれたから。」

シャンタルがほんの少し嬉しそうに、目を細めた。

子供達が意地悪く、にんまりと笑う。
シェリーは、自分の顔から血の気が失せていくのを感じていた。

「あー!シェリー、いけないこと考えたんだー!」
「いーけないんだー!いけないんだー!」
「クロディーヌおばさんにいってやるー!」



頭がくらくらする。

「…主語を…」

思わず足の力が抜けてしまった。

足の力どころではない。
体の力も抜けてしまう。


そこで体の異常に気づく。
思い出せば、暑い中何時間もずっと立っていた気が…する。


「…主語を、いってくれ…」

そのまま、頭をしたたかに壁にぶつける。

「シェリー!?」

シャンタルの声を最後に、視界が突然黒く染まる。
日射病には気をつけよう。





*  *  *  *  *  *





 「こまめな水分補給と帽子の着用ッ!」

自分の叫び声に目がさめた。

シェリーは布団を押しのけて起き上がると、頭にごつんと何かが当たった。
首を捻れば、四角い氷が水とともにぶら下がっている。

自分の部屋。
窓の外には、子供の姿もない。
太陽の光は緩く、少し開いた窓からは冷たい空気が入ってくる。

「…あれ?」

確か、カキ氷を食べていて倒れたんじゃ。

「相当ぼけてるねぇ。」

声のする方を見れば、長袖に身を包んだシャンタルと、クロディーヌがいる。
特にシャンタルは心配そうにこちらを見ていて、こちらが何やら罪悪感を感じてしまう。
両手でお盆を持ち、盆の上には湯気の上がるコーンスープを持っていた。


「…熱…下がった?」

シャンタルは横の椅子の上にお盆をおくと、冷たい手でシェリーの額に触れた。
気持ちがよくて、思わず目を閉じる。

「見回り中にぶったおれたんだよ、風邪で!体調管理も出来ないとは、本当、馬鹿弟子だ!」

ということは、あれは夢だったのか。
おそらくポカン、としているだろう自分の顔を見て、クロディーヌはびしりと人差し指をこっちに向けた。

「…去年の夏も、日射病でぶったおれたし…このままじゃ破門だよ、シェリー!」

もう知らない!と満足行くまで文句を行った後、クロディーヌは部屋を出て行く。

「おば様も心配しているのよ。」

シャンタルはぶら下がっている氷を持つと、冷たいか確かめる。

「…去年の夏って、シャンタルいたっけ?」
「いないわ。」
「そう…だよなぁ。」


やっぱり夢だったのか。
それでよかったのかもしれない、と思いながら反面、残念だと思う。


「…好き?」


シャンタルはお盆を再び手に持ちながら、聞いてくる。
今度は分かる。

コーンスープのことだ。

が、わざと笑んでみせる。

「それは…スープのこと?カキ氷のこと?それとも…」

オレのこと?

言おうとして、恥ずかしくなる。
そんなキザなことは死んでもいえない。

吐き気がこみ上げてくる。


これでは、お風呂にします?お食事にします?それとも、わ・た・し?と同じレベルだ。


吐き気?

まずい。


「…う…っ」

すんでのところで、口を押さえる。
口の中に苦い味が広がっていく。それが益々吐き気を促す。
風邪は思ったよりも深刻だったらしい。


シャンタルがこちらを見る。

「…もしかして…。」

夢の中であったことが、そのままの通りになってくれるなら、スープが嫌い?なんていわれても、返す余裕が無い。
必死に首を振る。


「…つ…つわり…なの?」



間。


「それ妊娠した女のひッ…う…うごおううえぇえぇぇ!」




…どっちにしろ、報われないんだ。

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3333ヒッター、烏夜さんへ。感謝を沢山、沢山込めて。
踏んでくださって、本当にありがとうございました!
…その御礼…が、こんな汚らしいものでよろしいんでしょうかっ!?
リクエストの「夏」「シェリー」が叶えられたらな、と思いながらも、
実は微妙に違う、夢オチだったりもします。
かなり長いのは…行間のスペースをかなり空けたからです。内容とは比例しません(苦笑
どうか、楽しんでくだされば幸いです。
では、これからもGrand Guignolをごひいきくださいませ。
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