髪も肌もじりじりと焼いていく強い日差しが憎らしくて、睨んでやろうと顔を上げたら、余りの明るさに目が眩んだ。
遠くでボールを投げ合って遊んでいる子供達がこちらを見て、手を振った。
「おねーちゃーん!」 …おねーちゃん? シェリーは暫くその意味をくるくると頭の中で巡らす。
「だ、誰がお姉ちゃんだ…ッ!」
四人の小さな少年少女たちは、満面の笑みを浮かべて、駆け寄ってくる。 「お姉ちゃんじゃねーって!」
それでも来てくれたからには、高い高いの一つでもしてやろうと、しゃがむ。 「おねーちゃん!」 シェリーは振り返る。
「おねーちゃん、カキ氷ちょーだい!」
ほんの四・五歳の子供に四人も詰め寄られて、シャンタルは戸惑い気味だ。 「落とさないようにね。」
彼女なりに子供と接しようと頑張っているのだろう。
「…シェリーの分…なくなってしまったわ。」 シャンタルは首を振った。 「おば様が、『シェリーは大食いだから』って言ってたから…五個くらい食べるかな…って思ったの。」 カキ氷を、五個。 「……いや、五個はちょっと無理だから。」
ナイフ一本で一気に六個もカキ氷を作ってしまう彼女は一体どんな神業の持ち主なのだろう。
そんなことを考えていると、不安そうな顔でシャンタルがしゃがんだまま見上げてくる。
「一個、頂戴。」
そう言うと、シャンタルがほっとしたように緊張させていた顔を緩めた。
自分が朝に見回りをしていたら、シャンタルが氷の塊を担いでいた。
さくり、と雪の山にスプーンを刺す。
「そうね。」
夏になったら…。
ふっと心に何か疑問のようなものが現れる。
こうしている間にも、太陽はちっぽけな自分達を焦がしていくのに。
隣を見れば、シャンタルは雪の山を一つすくって、口に運んでいた。
「シャンタル、どう」
突然すぎる告白に、出てくる言葉も出てこない。
「…オ、オ……レもす…すっ…」
シャンタルが怪訝そうな顔をする。
れもすって何だー!
己の情けなさ百倍増しだ。もれなく金銀パールプレゼント。
男としてどうなんだ、自分!
「…もしかしてシェリー…」
他にガールフレンドがいるんじゃないの?
蝋燭街には同い年の女の子なんて一人もいないから、こう見えて彼女居ない暦と年齢は同じだ。
「か、彼女なんていないから!」
あの感情を滅多に出さないシャンタルが、あからさまにしゅんとする。
「いや、好きだから!好き!好きだって!シャンタル!」
彼女いないっていったのに、誤解されてしまったか!?
立ち上がって全力で否定すると、向かい側でカキ氷を頬張っている子供達がこちらを見る。
「…じゃあ、来年も作るわ、カキ氷。シェリー、好きって言ってくれたから。」
シャンタルがほんの少し嬉しそうに、目を細めた。
子供達が意地悪く、にんまりと笑う。
「あー!シェリー、いけないこと考えたんだー!」
「…主語を…」
思わず足の力が抜けてしまった。
足の力どころではない。
そのまま、頭をしたたかに壁にぶつける。
「シェリー!?」
シャンタルの声を最後に、視界が突然黒く染まる。
自分の叫び声に目がさめた。
シェリーは布団を押しのけて起き上がると、頭にごつんと何かが当たった。
自分の部屋。
「…あれ?」
確か、カキ氷を食べていて倒れたんじゃ。
「相当ぼけてるねぇ。」
声のする方を見れば、長袖に身を包んだシャンタルと、クロディーヌがいる。
シャンタルは横の椅子の上にお盆をおくと、冷たい手でシェリーの額に触れた。
「見回り中にぶったおれたんだよ、風邪で!体調管理も出来ないとは、本当、馬鹿弟子だ!」
ということは、あれは夢だったのか。
「…去年の夏も、日射病でぶったおれたし…このままじゃ破門だよ、シェリー!」
もう知らない!と満足行くまで文句を行った後、クロディーヌは部屋を出て行く。
「おば様も心配しているのよ。」
シャンタルはぶら下がっている氷を持つと、冷たいか確かめる。
「…去年の夏って、シャンタルいたっけ?」
コーンスープのことだ。
が、わざと笑んでみせる。
「それは…スープのこと?カキ氷のこと?それとも…」
オレのこと?
言おうとして、恥ずかしくなる。
吐き気がこみ上げてくる。
まずい。
すんでのところで、口を押さえる。
「…もしかして…。」
夢の中であったことが、そのままの通りになってくれるなら、スープが嫌い?なんていわれても、返す余裕が無い。
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